「ある朝」

 

どこか遠い彼方から届く号泣する声・・・

ああ、誰かがどこかで泣いている・・・

ふと意識がよみがえったその瞬間

目覚めたのは泣きわめく自分の朝

 

からだ全体が泣いている

悲しみの勢いは、目覚めた後も容易に去らず

深く、重く、胸にあり、呆然と我を忘れるばかり

悲しみの訳は、 生々しく、

思い出されるというより、

すべての細胞に現実として生きていた

 

いま、たった今の今まで

誰かと一緒に空を飛んでいた

ぐ〜んと伸ばした手と

そらし気味のからだ

頭をやや下方に傾けて

ものすごいスピ−ドで飛んでいた

 

薄いヴエ−ルのような着衣が

ゴォーッという伴奏に

身体の回りで吹き舞わり

わたしを守護するように囲むのは少なくとも二、三人。

共に飛ぶこの人達は誰なのか?

 

耳を切る風の音

髪が、顔が、飛ばされそう。

「帰りたくない・・・帰りたくない、わたしは、戻りたくな〜い!」

必死に叫ぶ声

周りを囲んでいる誰かに

力一杯泣き叫びながら 必死になって訴えて

 

「あなたは戻らなくてはいけない・・・ やらねばならない事がある」

まぎれもなく、男の人の声

一緒に空を飛んでいた人の声

 

バイブレ−ションが一つ一つ

小さな細かい粒子となって

体中に点在している聴覚の受容体に

一つ、ひとつ、受け止められたかのように

エコ−がかったボワ〜ンという声が響いてくる

 

不思議なやすらぎと擁護感を含む声を

はねのけるように訴えつづけ

ああ、誰かが必死に泣いている

 

目覚めたあとも悲しみは 深く、重く

心の中に生きていて

言葉の意味と悲しさの存在に戸惑うばかり

夢と片付けるには重すぎる、悲しいこころ

 

泣いていたのは私なのに

どこに戻りたくないのだろう

此処、この現実に、か

生きているこの今に、か

身体を捨て、家族を捨て

何処に滞りたかったというのだろう。

 

あの声は、 愛と荘厳さに満ちた

あの人は、一体私の何なのか

 

この空のどこかに

そんなに私が残りたかった場所があり

一緒に居たかった人達が

本当に存在するのだろうか